理事長からの食品表示便り
遺伝子組換えの表示基準改正について
|
|
寒の入りになり、寒さも日増しに厳しくなってきましたが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
現在、消費者委員会食品表示部会(表示部会)では、遺伝子組換え表示の審議がなされています。同部会では、次期消費者基本計画にも関連する「食品表示の全体像(グランドデザイン)」の検討がなされていることは、既刊号でお示ししたとおりですが、その検討と並行して遺伝子組換え表示に関する検討も進められています。
本課題につきましては、現行消費者基本計画に明記されている要検討事項の一つになっており、すでに消費者庁主催の有識者検討会においての検討が終わり報告書が出されています。(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/review_meeting_010/pdf/review_meeting_010_180419_0003.pdf)
表示部会においては、12月19日の第49回食品表示部会から本格的な議論がなされ、本年に入って1月25日第50回の部会においても引き続き議題として審議がなされました。
これらを踏まえ、今回は遺伝子組換え表示に関して、特に公定検査法についてご説明します。
1 遺伝子組換え表示制度の状況
まず、遺伝子組換え農作物の安全性には問題がない(食品衛生法)ことを前提とすべきです。
表示については、平成13年から義務表示制度が開始され、現在は食品表示法に基づいています。表示対象は、8農産物(大豆、とうもろこし、ばれいしょ、アルファルファ、てん菜、なたね、綿実、パパイヤで、現在、日本国内において、商業的な栽培は行われていません)及び33加工食品群(加工後に組み換えられたDNA等が検出できる食品[豆腐、とうもろこし缶詰等])が義務となっており、加工後に組み換えられたDNA等が検出できない食品は義務表示の対象外となっています(しょうゆ、植物油等)。
義務表示の例として、@遺伝子組換え農産物を区別している場合には、例えば「パパイヤ(遺伝子組換え)」などと表示、A遺伝子組換え農産物と遺伝子組換えでない農産物を区別しない(不分別)場合には、例えば「とうもろこし(遺伝子組換え不分別)」などと表示します。
また、任意表示の例として、遺伝子組換えでない農産物について分別生産流通管理を適切に行い正しく区別している場合には、例えば「大豆(遺伝子組換えでない)」などの表示が可能です。(これは33加工食品群以外の食品であっても同様に表示することが可能です。)
海外と制度を比較してみた場合、「遺伝子組換えである旨」の表示が免除される混入率(分別生産流通管理を行っても遺伝子組換えのものが意図せずに混入してしまう率)は、我が国の場合「5%以下」であり、さらに日本ではこの基準を満たしていれば「遺伝子組み換えでない」との任意表示することができます。この点は特にEU等と比較して緩やかな基準となっています(図1)。
こういう状況の中、「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」における検討結果として、前述の、大豆及びとうもろこしについて分別生産流通管理を適切に行なっている場合に遺伝子組換え農産物の混入が5%以下であれば、「遺伝子組換えでない」旨の任意表示が可能という現行制度を見直し、「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件を公定検査法により「不検出」となる場合に限るという厳格化を求める結果報告がなされました。
2 科学的検証と社会的検証
現行の遺伝子組換え表示は、その原材料である対象農産物が遺伝子組換えかどうかに着目した制度(食品表示基準第3条第2項)となっています。
また、遺伝子組換え食品の表示の監視は、書類の確認(社会的検証)を基本に、これに先立って、科学的検証の手法で対象を絞り込むなど、社会的検証と科学的検証を組み合わせて実施する仕組みとなっています。
したがって、あくまでも社会的検証が主で科学的検証はスクリーニングや傍証的位置づけとなっており、例えば科学的検証により混入率が3%と分かったとしても、社会的検証の結果「意図した混入」であることが判明した場合には表示違反になることもあるということです。
なお、具体的に「遺伝子組換えでない」旨の表示(任意表示)については、その原料の分別生産流通管理がなされている旨の書類、遺伝子組換え農産物が混入していないことの根拠の確認等の社会的検証に加え、科学的検証の手法で原材料の大豆やとうもろこしにおいて遺伝子組換え農産物を含まないことを確認します。
ところで、加工食品から遺伝子組換え陽性反応が出る原因は様々であり、また立入検査時には当該製品の製造ロットの原料は入手できない場合が多いため、違反の判断には科学的検証と社会的検証の双方からの丁寧な調査が必要であり、具体的な措置を講じるかどうかは調査の結果からケースごとに総合的に判断することになっています(図2)。
3 遺伝子組換え食品の定性検査について
我が国では、2001年から遺伝子組換え表示が義務化されてきました。
当時は、JAS法と食品衛生法に基づいた基準による制度でした。したがって、「JAS分析試験ハンドブック」及び厚生労働省の通知により検査法が定められ、それが標準分析法とされてきました。
その後、2009年に消費者庁が設立したことを契機に、遺伝子組換え表示の基準も一元化が図られ、2012年に検査法も消費者庁通知に基づく方法に一本化されました。
我が国の遺伝子組換えトウモロコシ及びダイズの定量のための標準分析法は、リアルタイムPCR法を用いたものです。同法の特徴は、定量のための検量線作成に種子ではなくプラスミドを標準物質として用いていることです。
また、これまでにも、同法に関しては日進月歩の進歩をとげ、当初検知対象として、遺伝子組換えのトウモロコシが5系統、ダイズが1系統でしたが、徐々に遺伝子組換え作物の開発が進み、対象可能系統も増加するとともに、遺伝子組換え系統を複数掛け合わせた品種(スタック品種)にも対応可能な検査法も開発されてきました。
今回公定検査法として検討されているのは、前記のように実績のあるリアルタイムPCR法です。
トウモロコシを例にとりますと、検査の主な目的は、原料のトウモロコシについては違反事実の確認や特定そのものになるのに対して、トウモロコシを使って加工した食品については遺伝子組換え農産物が含まれる対象の絞込みになります。
ただし、両者ともリアルタイムPCR法によるものの、原料トウモロコシの場合は標準試料と検体のトウモロコシの内在性DNA(SSUb)とターゲットDNA(P35S及びTNOS)のCq値の差の値(ΔCq値)を比較することに対し、トウモロコシ加工食品の場合は検体(加工食品)に含まれるP35S及びTNOSとトウモロコシ内在性DNA(SSUb)を検出するものです。
これは、原料トウモロコシについては検体と標準試料との正確な比較が可能であるのに対して、トウモロコシ加工食品の場合には、加工工程等におけるDNA分解が一定でないためP35S、TNOS及びトウモロコシ内在性DNA(SSUb)を独立的に定性判定しなければならないからです。
また、DNA含有量が微量な場合、リアルタイムPCR法の検出にばらつきが出ます。
いずれにしても、原料農産物では、流通や監視の現場で混乱が生じないよう、検査法の検出限界として、どの機関でやっても同じ結果となる基準が必要となります。したがって、複数の検査機関間でのばらつき等について慎重な検討が必要となります。
一方、加工食品の検査は、前記の理由により、判定基準となる標準試料は用いず、各試験室において遺伝子組換えターゲットDNAの検出を確認する検査となります。
このように、原料と加工食品では、検査の目的や検体の特性の違いを検討の上、設計されています。
これら検査法は、今後とも進歩を重ねていくことになりますが、公定法としては実績があり、現場の特性を踏まえて安定性を有するものが求められます。
4 今後のスケジュール
公定検査法は、監視のためだけに用いるものではなく、事業者が取引や仕入れの際のチェックに用いることも想定する必要があります。
したがって、確立され公表された後には、どこでも適正な検査ができるよう十分な普及・啓発をすることが求められます。
スケジュール的には、来年度トウモロコシ、平成31年度ダイズについての検討がなされ、正式な公表は平成32年度以降になると思われます。
本改正基準は、事業者の切り替え準備期間のみならず、定義の近いによる新旧両者の表示が市場に出回ることを避けるとともに、前記公定法の公表スケジュールも考慮し、現行では平成35年4月の施行という異例の長期の諮問がなされています。
(参考資料)
橘田和美,月刊フードケミカル,7月号,86-88(2018)