理事長からの食品表示便り


-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)-
名刺記載例

前回に引き続き、今後の食品表示制度の動向について記します。

5 食品表示法の目的と表示事項の役割
 残された課題の検討という第4ステージに入った新食品表示制度ですが、どのような課題なのかを記す前に、平成25年に制定された食品表示法の目的についてあらためて確認しておきましょう。
 同法の目的は、第1条に規定されていますが、同条には「食品表示」の二つの役割も示されています。すなわち、@食品を摂取する際の安全性の確保及びA自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保です(図表8)。 表示事項のうち、「アレルゲン」、「保存の方法」等は@に該当し、「原材料名」、「製造者名」等はAに該当します。
図表8  ちなみに、食品表示法第4条には、食品表示基準の策定等について規定されていますが、具体的な表示事項の例として「名称」、「アレルゲン」、「保存の方法」、「消費期限(食品を摂取する際の安全性の判断に資する期限をいう)」、「原材料」、「添加物」、「栄養成分の量及び熱量」、「原産地」が挙げられ、それ以外の事項については「その他食品関連事業者が表示すべき事項」として内閣府令で措置することになっています。
 規定されている個々の表示事項の順番は、食品の安全性の確保を優先し、併せて消費者の自主的かつ合理的な選択の機会の確保に資する観点から定められています。  
 この中で、「添加物」については、消費者の自主的かつ合理的な商品選択の観点で位置づけられていますが、特定のアレルギー体質を持つ消費者の健康危害の発生を防止する観点もあると言われています。
 なお、「アレルゲン」は、定義付けが難しいため、法案の段階では法律では明記せず内閣府令で規定することになっていましたが、国会審議の中で、安全性に関する重要な事項との指摘があり、追加された経緯があります。

6 新食品表示制度における残された課題への対応状況
 第4ステージにおける要検討課題の根拠は、消費者基本法に基づく消費者基本計画(以下「基本計画))に明記されています(図表9)。 具体的には、「加工食品の原料原産地表示(以下「原原表示」)」、「インターネット販売食品の表示」、「遺伝子組換え表示」、「添加物表示」及び「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取り扱い」が挙げられています。
 このうち、添加物表示以外は、検討会や(インターネットに関しては)懇談会が設置されて検討されてきました。
図表9  なお、基本計画でいう「検討」とは、必ずしも検討会等を設置するというものではなく、例えばアンケート調査の実施等で対応することもあります。
 上記課題のうち、「原原表示」、「インターネット販売食品の表示」及び「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取り扱い」については、既に検討を終え報告書が出されておりますが、このうち「インターネット販売食品の表示」及び「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取り扱い」については、検討結果を踏まえてガイドライン等で対応し、「原原表示」のみが食品表示基準として規定されることとなりました。  
 なお、「遺伝子組換え表示」については、平成29年4月に検討会を設置し、本年度内の取りまとめに向けて現在検討中です。また、「添加物」については、来年度検討するということになりそうです。
 上記5課題は、いずれも基本計画で検討について明記されていることは既述の通りですが、このうち「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取り扱い」以外の4課題は食品表示一元化検討会においても結論が出ず「宿題」として残されたものでもあります。
 また、それ以外にも「情報の重要性の整序」や「中食・外食のアレルギー表示」も一元化検討会で指摘された課題でした。このうち後者については、既に終わった検討会での検討結果を踏まえガイドラインで対応されています。
 前者の「情報の重要性の整序」とは、食品に関する情報をどこまで「表示」として又は「表示」以外の媒体を通して消費者に伝えるかという課題で、今後の食品表示制度の在り方に大きく影響する重要なテーマとなっています。破線で囲ったのは、実線で囲った原原表示の義務化により、さらに深刻になると予想されるからです。
 その他、食品表示基準についての審議において、結論が出なかった「異種混合」の定義や、あと2年数か月後に迫った栄養表示の義務化に関しての円滑な対応についても課題として挙げられます。

7 食品表示全般に対する消費者の意識
 食品表示を活用するのは消費者であり、消費者が現行の表示に対してどのような意識を抱いているかを把握することは重要なことです。この点では、平成23年の12月に、消費者庁がWeb調査により約1,000名を対象に行ったアンケート調査結果が食品表示一元化検討会の資料として示されましたので、ご紹介します。
 まず、どの表示事項を参考にするかですが、図表10に示すように、「価格」、「期限表示」、「原材料名」、「内容量」…の上位4事項については、「いつも」又は「ときどき」参考にすると回答した人が、約70%〜90%いたのに対して「アレルギー表示」は約24%でした。だから「アレルギー表示」が不要ということではなく、アレルギー疾患の人は、まずはこの表示を見るに違いなく、安全性確保のための表示としてきわめて重要な表示事項です。この図表は、あくまでも消費者トータルとして見た場合という前提のデータです。
図表10
(図表10)消費者が加工食品を買う際の表示の参考度合
消費者庁調査;平成23年12月[n=1,083] (第6回食品表示一元化検討会資料より)


 次に、表示が分かりにくい理由ですが、図表11に示すように、ほとんど全てに共通して「文字が小さい」からとの回答が第一でした。高齢化の進展により、この傾向は今後も高まることが予想されることから、「文字の大きさ」というのは要検討事項として重要な位置づけと判断できます。ちなみに、現行のルールでは、原則8ポイント以上となっています。
 また、個々の事項について、表示を見る理由は図表12で示す結果となっています。この中で、「輸入国の原産国・製造国」、「原材料の原産地」及び「遺伝子組換え表示」については、本来安全性の確認のための事項ではないのですが、いずれも60%以上の人が「安全性を確かめるため」と回答しています。
 このことは、正しい理解のための普及・啓発が必要との意見もあるかもしれませんが、現時点における消費者の意識実態として素直に受け止めるべきだと思っています。

図表11
(図表11)分かりにくい理由(複数回答)
消費者庁調査;平成23年12月[n=1,083](第6回食品表示一元化検討会資料より)


図表12
(図表12)消費者が食品表示項目を見る理由
消費者庁調査;平成23年12月[n=1,083](第6回食品表示一元化検討会資料より)


 前記のように、分かりやすい表示にとって「文字の大きさ」は無視できない要因となっていますが、仮に文字を大きくするには情報量すなわち現行の表示事項を絞る必要があります。一方で、消費者の中には、現行の表示が分かりにくいのは情報量が少ないからだという方もいます。
 これらを踏まえ、「表示事項を絞り、文字を大きくする」方がよいか、「小さい文字でも多くの情報を載せる」方を望むかのアンケート調査をした結果が図表13です。これによると、前者が73%に対し、後者が27%ということでした。すなわち、文字を大きくしてほしいという消費者の方が多い結果となりました。しかし、「小さい文字でも多くの情報を載せる」ことを選んだ人の割合である27%という数字は必ずしも少なくないとも判断できます。

図表13・14
消費者庁調査;平成23年12月[n=1,083] (第6回食品表示一元化検討会資料より)

 そこで、両者の意見を満たす手段として表示以外の情報伝達媒体の活用について調査した結果が図表14です。「できるだけ多くの情報を容器包装に表示する」を選んだ回答者と「容器包装に載せる事項を重要なものに限り、それ以外は容器包装以外の表示媒体を活用して任意に伝達する」を選んだ回答者が全く同割合でした。
 この課題は、食品表示一元化検討会でも議論された経緯があります。前者を選んだ消費者は携帯電話やパソコンを使わない高齢者層が多いようでした。後者でいう表示以外の情報伝達媒体としては、QRコードやICタグ、POP表示の他に、薬のように重要な情報を箱容器に載せ、詳細は容器の中に説明書を入れる方法や関心事は消費者個々で異なることから問合せ電話番号を表示し、個別に回答するなどの方法が考えられます。
 ただし、どの媒体も一長一短があるということが一元化検討会で指摘されました。例えば、QRコードは高齢者の利用が少ない、薬方式はビン入り飲料のような食品は困難、電話による問合せ方式は消費者によっては抵抗感があると同時に回答するサイドにとっても負担が大きい等です。
 しかし、QRコードを活用する世代は着実に増えていることも事実で、今後時代の変遷とともに抵抗なく普及する可能性は高いと考えられます。

8 加工食品の原料原産地表示に対する消費者意識
 前項では食品表示の全般的な消費者の意識について記しましたが、最近の表示制度の動きの中で、個別表示事項として原原表示の例について記します。
 義務表示事項が増え続けていることは、記述の通りですが、平成29年9月から新たに原原表示基準が施行されました。
 これは、原則として全ての加工食品が義務対象となるもので、記述のとおり表示可能面積が実質縮小するのに反して、さらに表示事項が増えることになりました。
 この結論に至るまでに、消費者庁・農林水産省共催の検討会や消費者委員会食品表示部会において検討・審議された時間は合わせて延べ約40時間でした。当該分野の制度を、今後どのように持って行こうかということは、当然ながらまずは消費者の意向を重視する必要があります。
 その前に、現行の食品にどの程度原原表示がされているかを示したのが図表15です。元々旧JAS法に基づき「品質の差異」を指標としたルールでしたので、これまで対象品目が追加されたとはいえ、全加工食品の約1割程度しか占めていません。これに任意での表示の16%を加えても計3割に満たない状況です。おそらく、これまでの基準を活用して逐次品目追加をしていったとしてもそれほどの増加は期待できなかったと推察します。
図表15
 こういう状況の中、消費者庁が実施したアンケート調査の結果によれば、図表16に示した通り、原原表示を参考にしている人は約77%で、これは4年前の68%に比べても大きく増加しており、消費者の関心の高さがうかがえます。
 また、図表17に示すように、今後「これまでどおり参考」又は「これまで以上に参考」にすると答えた人は、全体の約76%と高い数字となっています。
図表16
図表17
 それでは、何を理由に参考にするかということですが、図表18に示すように、約65%の人は「国産のものを選びたい」と答えていました。こういう答えした人は、商品に原原表示がされた場合には国産品を選び、この結果、国内の一次産業の振興に繋がることも期待できます。
 一方、「原料が特定の原産国のものを選びたい又は選びたくない」と答えた人も約40%おり、活用の理由は消費者によって異なっていました。
 すなわち、今回の制度改正は必ずしも国内の一次産業の振興を目的としたものではなく、あくまでも「消費者の選択に資する」という消費者基本法の基本理念に基づくものとなっています。
図表18
 一方、加工食品の原材料に関する情報を表示以外の媒体を活用して消費者に伝えることに対しては、図表19に示したように、約93%という圧倒的多数の人が「表示」で確認したいと回答しており、「ホームページを見る」と答えた人は、18%しかいませんでした。これは、日常生活の中で、パソコンや携帯電話を用いない層がまだ少なくないことも影響しているものと思われます。
 ただし、Web媒体の活用は最新情報やよりきめ細かな情報を伝える点で、大変便利であり、これらの活用を事業者が自主的かつ積極的に活用することについては、行政としても推進していく方針を示しています。
 こうした消費者の意識を踏まえて策定された原原表示の基準に関しては、既に以前のこの「食品表示頼り」で解説させていただきましたので、ご参考にしてください。
図表19

9 今後の食品表示のあり方
 以上、これまでの食品表示制度の経緯と課題について、最近の動向も踏まえて記してきました。
すなわち、食品表示の活用主体は消費者であり、その消費者が真に分かりやすい表示を求めていることも事実です。今後の制度は、当然ながら「分かりやすい表示とは?」という基本的で最も重要な課題について、真剣に議論する必要があると思います。
 この課題は、食品表示一元化検討会における「宿題」にもなっています。同検討会では、このことについて図表20のような報告をしています。「できるだけ多くの情報を表示させることを基本に検討を行うよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わることを基本に検討を行うことが適当」との方針を示しています。 図表20
 ここでいう「より重要な情報」とは、安全性確保に関する情報のことです。また、今後食品表示に関して消費者がどれだけ理解し活用しているかを踏まえた調査や検討が必要になってきますが、そうした調査結果により「選択に資する情報」のうち理解や利用度が低い事項については「優先順位」の考え方を導入することも示しています(図表21) 図表21
 なお、今回の原原表示について消費者委員会食品表示部会における審議を踏まえた「答申」の中で10項目の「前提条件」が付され、その中に上記の消費者の理解度・活用度・満足度についての調査も挙げられております。
 今後は、原原表示以外の全ての表示事項についても同様な調査がなされることを期待しているところです(図表22)
図表22
10 分かりやすい表示に対する取組の必要性
 以上、これまでの食品表示制度の経緯と残された課題について、その概略を説明しましたが、「分かりやすい表示とは?」ということについては、これまで本格的な検討がなされていませんでした。
 これからの当該課題についての議論に当たっては、科学的で客観的な検討も必要となります。  
(2017年12月27日現在)




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