理事長からの食品表示便り -加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- |
梅雨が明け、いよいよ本格的な夏の到来となりましたが、皆さま暑い中お健やかにお過ごしでしょうか。
さて、今回も本年3月29日に消費者委員会食品表示部会(以下「部会」)に諮問された「加工食品の原料原産地表示に関する基準案」の審議状況をご報告させていただきます。
諮問された食品表示基準案(基準案)については、3月開催の第39回部会において審議されたのに続き、6月8日の第40回部会では、4月に収集した基準案に関するパブリックコメントの結果等も踏まえて審議され、更にその後6月29日の第41回及び7月12日の第42回部会においても熱心な審議がなされました。
ちなみに、それまでの審議時間は、基準案に対する前記第39〜42回の4回の部会で延べ12時間半、諮問前に開催された昨年12月開催の第38回(消費者庁・農林水産省共催の検討会の「中間とりまとめ」に対する議論)も合わせると約12時間半になります。
なお、今回の審議に関しては、基準案が示された最初の部会(第39回)において、座長である部会長(阿久澤良造 日本獣医生命科学大学学長)から「『中間とりまとめ』をまとめた検討会の議論のやり直しは、当部会に求められていることではない」との発言があり、部会としても最初の時点に遡った根本的な議論はしないという前提のもとで、主として懸念される各論に関して審議がなされてきました。ただし、第42回の部会においては、各論の議論が一通り終わった時点で若干「総論」の議論もなされました。
こうした経緯を経て、第42回の部会の最後に、座長から「次回の部会(第43回)において、部会長としての答申案を示し、それをたたき台とした審議をお願いする」旨の発言がありました。
前回までのメールマガジンでは、第41回(6月29日開催)までの審議状況についてご報告させていただきましたが、今回は第43回に示された「答申案」に関する審議状況について記すことにします。
部会長から示された答申案は以下の通りです。
構成は、「前文」、「前文中の「前提」の内容(別紙1)」、「前文中の「(1) (2)」を受けた諮問された基準案の修正・追加内容(別紙2)」及び「付帯意見」の4つから成っています。
ここで、「(赤字)」部分は、部会長からの趣旨説明内容になっていますので、参考にしてください。
(本件を検討する最初の部会(第38回)で、「本委員会へは諮問されてくる基準案に対し、懸念や疑問を十分に払拭できるものとなっているかの確認が求められている。また、消費者庁が事業者の実行可能性を見つつ考えられる基準案や実際の表示が、消費者が十分理解し有効活用できるかを見極めていくことが重要である。さらに、中間とりまとめをまとめられた検討会の議論のやり直しは、当部会に求められていることではない。」と発言。その後、これらを理解してもらった上で、議事進行に協力いただきつつ議論を進めてきた。このことを念頭に置いて、前回部会での総論に関する意見を参考にし、また、前回欠席だった3名の委員にも事務局を通じて意見を得た結果、制度導入に賛成する委員、導入自体は評価するという委員、導入はやむを得ないと考える委員が、多数を占めていると判断。その上で、各論の審議を通じて、制度運用が万全とまでは確認できなかった部分が残っているため、それらに対する対応要求を、制度導入を容認することの前提条件として記載した。前提条件は、別紙1に計10項目を記載。これまでの委員の懸念や意見を受けて、消費者庁は資料の修正や追記をしてきたが、同時に、今後努力して期待に応える旨の発言も多くなされた。)
◎前文
内閣府令
食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)の加工食品の原料原産地表示制度に係る規定及び別表の一部改正について、以下(1)(2)を除き、別紙1の1.〜 10.の実施を前提として、諮問された改正案(別添)のとおりとすることが適当とする。
(1) 第3条第2項表1の五イの(ロ)の修正が必要である。
(2) 施行期日、経過措置、今般の一部改正による原料原産地表示の対象とならない製品の範囲に関する追記が必要である。
上記(1)(2)について、消費者庁の説明に基づき食品表示部会で議論し了承された修正方針を別紙2のとおり示すので、諮問された食品表示基準案を変更されたい。
また、消費者委員会の問題意識を別紙3のとおり、付帯意見として付す。
◎諮問された食品表示基準案を適当とする前提条件(別紙1)
(別紙1では、最初に努力目標が必要であろうと考え、「消費者・事業者の理解状況に関する目標値の設定」を挙げた。答申書案に記載したとおり、この制度は、消費者の商品の合理的選択の確保から構想されており、消費者が表示の意味を正しく理解し活用しなければ、制度を導入する目的が達せられない。また、制度導入にあたっては、事業者が制度を正しく理解し、理解不足による誤表示が発生しないように、行政が十分に周知を行うことは必須である。この点については、全ての委員に賛同されると確信しているが、一方で、制度導入後、消費者・事業者の双方が十分に制度や表示わ理解できるかという点について、今も疑念や不安を持っている委員がいると思う。今回、答申書案を考えるにあたり、制度導入を適当とするとしても、この疑念や不安を解消するための方策が絶対に必要であると思い、そのための一つの手段として、目標値の設定に関する項目を記載した。これは、以前の部会で受田委員から、効果判定ができる数値設定が必要との意見があり、その考え方をとりいれたものである。まずは、制度を導入する行政自身が、どの程度理解が進めば、この制度を導入する目的を達せられると考えているかを、目標値という形で明らかにし、その目標を達成するためには計画が必要になってくる。計画的に、今まで以上に積極的な広報活動を行っていくことが、現在、委員の皆さんが抱えている懸念や不安を払拭する助けになると考えた。)
<消費者・事業者の理解状況に関する目標値の設定>
1.全ての加工食品に原料原産地表示を義務付ける制度は、消費者の商品の合理的選択の確保から構想されており、消費者が表示の意味を正しく理解し活用しなければ、制度を導入する目的が達せられない。また、制度導入にあたっては、事業者が制度を正しく理解し、理解不足による誤表示が発生しないよう十分に行政が周知を行うことは必須である。このため、消費者への普及・啓発、事業者への制度周知にあたっては、あらかじめ理解度等に関して達成すべき目標値を設定し、達成状況を適宜確認しつつ、周知活動を行うこと。
(「消費者への普及・啓発」については、前々回に消費者庁から紹介された調査結果によると、これまでの食品表示の理解度(理解度の数値として適切かどうかは別として、制度が新しくなったのを知っているかの設問に対し)は30%に満たないという状況で、その現状を踏まえれば、今までとは違った形の手法も取り入れて、行政がこれまで以上に真剣に普及・啓発に取り組む必要がある。各論の審議では、消費者庁から、国の直轄事業としては珍しいスーパーやコンビニでのチラシ配布といった、消費者に直接情報を届ける形での普及・啓発を実施するといった説明もあった。また、消費者向けのQ&Aも作成した、制度への理解を深めてもらうといった説明もあった。それらの実現を始めとして、更に検討を重ねて効果的な普及・啓発に取り組むことは必須条件であると思う。)
<消費者への普及・啓発>
2.消費者への普及・啓発にあたっては、従前の食品表示に関する消費者の理解が進んでいない現状も鑑み、新たな普及・啓発方法も取り入れて、目標達成に向け丁寧かつ十分に行うこと。
(「事業者への周知」については、渡邊委員、川口委員をはじめとして、多くの委員から、事業者への周知の重要性が意見として出された。それに対して消費者庁から各種説明会の実施や地方自治体との連携についての説明があり、農水省から、地方農政局に相談窓口を設置する予定との説明があった。前回、渡邊委員などから、監視が十分に行えるかと心配する前に、行政が事業者への周知を十分に行う方が先であり、非常に重要という意見があったが、周知が足りないばかりに制度理解が進まず、その結果、誤表示が発生して行政指導の対象となるといった構図は、絶対に避けるべきであり、全くその通りだと思う。行政の責任において、大手事業者だけでなく中小・零細事業者が制度を十分に理解することができる施策を実施し、事業者の理解不足に基づく誤表示が発生しないようにすることは、この制度を導入する行政の責務であると思うので、その趣旨で記載している。)
<事業者への周知>
3.本制度は、事業者の規模に係わらず、国内で活動する全事業者に加工食品の原料原産地表示を義務付けるものであるため、事業者向けの周知にあたっては、説明会の開催のみにとどまらず、説明会に参加する時間が取りにくい中小・零細事業者にも十分に配慮した施策を実施すること。併せて、事業者が必要とする時に具体的な個別相談を行うことができる相談窓口を全国各地に常設するなどの対応も行い、事業者の理解不足に基づく誤表示が発生しないよう、事業者への周知を丁寧かつ十分に行うこと。
(「Q&A」については、消費者庁から一部の内容が示され、その内容について議論し、いろいろな修正意見が出された。また、当部会に示された内容だけでは足りないとの意見も出されており、消費者庁からは、今後、拡充を検討するという回答があったところである。これまでの審議の中で、委員からいろいろな具体的な修正提案が出されているが、それらの内容を個別に記述するより、部会での議論を踏まえて更にQ&Aを拡充し、事業者が制度を誤って解釈しないように、判りやすくかつ的確な制度解説を行うことを条件にした方が、具体的には提案が出ていない部分も含めて、全体的に検討してもらえると判断し、このような記述とした。蒲生委員や川口委員などからの意見が出ている実績表示の変更提案についても、同様の趣旨で具体的には記載せず、今のような表現としている。)
<Q&Aの充実>
4.食品表示部会での議論を踏まえてQ&Aを更に拡充し、事業者が制度を誤って解釈しないように、判りやすくかつ的確な制度解説を行うこと。特に、例外要件に当たるか否かの判断基準や、原料原産地表示の根拠資料の保管に関するルール、行政に対し説明が必要となる事項等を、明確に理解できる解説とすること。併せて、表示例の記載にあたっては、当該例示を参考に事業者が作成することとなる表示が、消費者の誤解を招かない内容となるよう、更に精査を行うこと。
(「経過措置期間中の周知状況に関する状況把握・分析」に関し、消費者の理解度については、経過措置期間中から調査・分析し、必要な対応を行っていくことは当然必要だが、経過措置期間中は、事業者への周知状況を把握することも極めて重要と思う。このため、経過措置期間中の、消費者・事業者双方の周知状況の把握との分析について、まとめて記述している。)
<経過措置期間中の周知状況に関する状況把握・分析>
5.消費者庁が実施するとしている「周知状況を把握する調査」は、消費者のみならず事業者に対しても実施すること。経過措置期間中、毎年調査を実施し、周知状況の現状分析を行った上で、目標達成状況に応じて周知活動の追 加実施や周知方法の変更を行うといった柔軟な対応を行うこと。
(「監視」については、これまでの審議で、監視は、故意に事実と違う表示を違う表示を行う悪質業者がいた場合に、その事実をいかに見抜けるかという点が重要との意見が数多く出された。また、そのためには、現時点でもっと監視の運用手順を具体的に詰めておく必要があるとの意見も出されている。消費者庁、農水省からは、現状の監視体制や状況に関する説明がこれまであり、この制度が導入されても、現状の監視体制の中で対応可能との説明があったが、現状の体制だけで足りるとする点には疑問があると考える委員は、今もいると思う。このような状況のため、施行の前提条件として、「監視体制をより一層強化するとともに、本制度の監視に関する運用を更に具体的に検討し、国・地方自治体が連携して不正表示を許さない制度運用を速やかに確立すること」としている。)
<監視>
6.本制度の導入にあたっては、故意に実際と異なる表示を行った事業者がいた場合に、そのような不正表示を的確に把握し、当該事業者を処分できる監視体制と制度運用が整っていることが必須条件である。食品表示に関する監視体制をより一層強化するとともに、本制度の監視に関する運用を更に具体的に検討し、国・地方自治体が連携して不正表示を許さない制度運用を速やかに確立すること。
(今回の改正で「おにぎりののり」への原料原産地表示を義務化することに関連して、今後、同様の扱いをする品目が出てくる可能性があると消費者庁が説明したことを受けて、品目選定のための定性を定めて公開するべきという意見があり、今後のためには重要と考えて記載した。)
<別表第十五(第三条、第十条関係)への品目の追加基準の明確化>
7.今後、「おにぎりののり」のように別表第十五(従前の22食品群+4品目の原料原産地表示)に追加する品目を選定する場合の基準を明確化し、公表すること。
(「例外表示の検証」については、現状では、例外表示がどの程度の割合になるかが判らないため、制度を導入してみると、結果として例外表示が多くなってしまい、消費者が商品選択の際に、うまく表示を活用できないのではないかといった意見がずっと出されている。原則である国別重量順位での表示が多くなれば、消費者が表示をみて誤認するのではないかという懸念も小さくなり、例外表示が増えれば、懸念も大きくなるということなので、表示がどの程度の割合で存在するかという現状把握していくべきで、例外の割合が相当程度に達する場合には、その要因についても分析していくことは重要と思い、この点につき記載した。)
<例外表示の検証>
8.制度施行後、定期的に制度の原則である国別重量順表示と例外表示がどの程度の割合で存在するかを調査し、例外表示があくまで例外といえる割合にとどまっているか、例外の割合が相当程度に達する場合は、どのような原材料や製品で例外表示が多いかといった点を検証していくこと。
(「理解度調査」については、ほとんどの委員から必要との意見が出ている調査で、特に説明は不要と思うが「経過措置期間終了後、消費者の理解度・活用度・表示に対する満足度などに関する調査を定期的に実施し、現状分析を行うこと。この際、事業者に寄せられた質問や意見等についても調査を実施し、現状分析に活用すること。」との記載をした。なお、経過措置期間中の消費者の理解度調査は、5.の周知状況に関する状況把握・分析の項目に記載しているため、この項目については経過措置期間終了後としている。)
<理解度調査の実施>
9.経過措置期間終了後、消費者の理解度・活用度・表示に対する満足度などに関する調査を定期的に実施し、現状分析を行い、その結果を公表すること。
この際、事業者に寄せられた質問や意見等についても調査を実施し、現状分析に活用すること。
(経過措置期間終了後、一定の期間が経ったところで、8.の例外表示の検証や9.の調査結果などに基づき制度導入の効果について検証を行い、必要に応じて制度の見直しを実施することは必要だと思う。消費者庁も見直しは行うと説明しているが、期限についてはね説明がなかった。前回の部会で宗林委員や澤木委員から意見があったように、一定の期限を切っておく必要があると思うので、2人の意見に沿って、平成34年4月1日から2年後を目途とする期限を記述した。)
<制度の見直し>
10.経過措置期間終了から2年後を目途として、各種調査結果等に基づき制度導入の効果について検証を行い、必要に応じて制度の見直しを実施すること。
(下記については、(1)が、可能性表示で重量割合が5%未満の場合に、5%未満と記載する対象から「その他」の表示を除くことについての記述。(2)は、経過措置期間の修正。どちらも各論の審議の中で了承されているため、消費者庁案での変更・追記について、記載している。)
◎諮問された食品表示基準案のうち、修正・追加を行うべき内容(別紙2)
(1) 第3条第2項表1の五イの(ロ)
一定期間使用割合が5パーセント未満である対象原材料の原産地について、当該原産地の表示の次に括弧を付して、当該一定期間使用割合が5パーセント未満である旨の表示を義務付けるが、第3条第2項表1の四の規定に基づく「その他」の表示に対しては、当該表示を義務付けない。
(2) 施行期日、経過措置、今般の基準改正による原料原産地表示の対象とならない製品の範囲
施行は今回の食品表示基準の一部改正に係る公布の日からとし、経過措置期間は府令の施行の日から平成34年3月31日までとする。
また、今回の食品表示基準の一部改正にかかる施行の際に加工食品の製造所又は加工所で製造過程にある加工食品は、従前の食品表示基準の例によることができる。
(下記は、委員から出された意見のうち、今後の表示に関することや、本制度に係わる事項のうち、前提条件というより付帯意見とした方がよいものを記載している。)
◎付帯意見(別紙3)
1.義務表示の増加に伴い、製品上に表示する文字がかなり小さくなっている。
加工食品の原料原産地表示も含めて、今後、義務化される表示が増えれば、状況は更に深刻化し、消費者が安全性に係わる表示を見落としてしまう要因にもなりかねない。現在の食品表示は製品上への表示が対象であるが、インターネットでの表示を表示制度の枠組みに組み入れて活用する方策検討も含めて、今後、表示の在り方や食品表示間の優先順位について総合的に検討すべきである。
2.加工食品の原料原産地表示制度は、国際的にはほとんど類例のない制度となるため、制度施行後の海外との商取引に影響がでないように、各国からの質問等があった場合には、引き続き、丁寧に制度に関する説明を実施することを望む。
3.食品表示部会に対して諮問案への変更点として消費者庁が提示した「附則 第3条」については、経過措置に関する条文の次に記述されていることもあり、一読しただけでは『施行の際に』加工食品の製造所又は加工所で製造過程にある加工食品は表示義務の対象とならないことに気づきにくい。経過措置満了の際に製造過程にあれば表示義務を課されないといった誤った解釈が されないよう、基準案の修文、もしくはQ&A等での丁寧な解説を望む。
なお、文中黒字で示した答申案については、内閣府消費者委員会のHPの食品表示部会関係の部分に「答申書(部会長案)」として掲載されていますので、参考にしてください。
http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/syokuhinhyouji/bukai/043/shiryou/index.html
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
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