理事長からの食品表示便り -若年層における食品表示教育の現状- |
「食育基本法」において示されているように、食育はあらゆる場所・機会に行うことが必要ですが、特に、子どもの保護者や教育関係者の役割は重要です。
近年、若年層(小中学生)に対する食育の一環として、食品表示に関する普及活動はどのように展開されているでしょうか。特に、地域の自治体や教育現場等において、どの程度なされているかに焦点を当て、宮城県下における取組について調査をしました。以下、その結果について示します。
(なおアンケート調査は2014年〜2015年に実施したものを用いております。)
1)地方公共団体における取組み
地方公共団体のうち、宮城県の場合、食品表示適正化事業として各種表示関連法に基づく監視・指導を行うとともに、生産者・事業者や消費者等への普及啓発を行っていました。食品表示監視指導事業は、各種情報に基づく確認調査及び監視・指導を行うものです。
食品表示制度普及啓発としては、市町村JAS担当者及び県関係機関職員研修会、消費者を対象とした講習会(みやぎ出前講座、食品表示研修会等)、生産者・事業者を対象とした研修会、輸入生かき偽装防止特別監視員(オイスターGメン)調査事業、宮城県産生かき適正表示協会の指導等が内容となっていました。
しかし、これらの普及活動も一般向けであり、若年層に限定とした取り組みではありません。仙台市も同様な対応でした。
これからの健全な食生活を担う若年層に対する食育教育の効果は大いに期待されるところですが、知識レベル等を考慮した場合、主婦層等成人消費者に対する普及・啓発手法をそのまま当てはめることは困難です。しかし、予算制約等の事情から、特別の事業として対応することが困難であることが実態となっていました。
2)学校教育における取り組み
小学校において食品に関する内容の学習は、「家庭」科目の分野に含まれています。食品表示に関しては、6年生で学習する機会がありました。
小学校学習指導要領の6年生の家庭においては、食事のとり方・組み合わせ、食品の栄養的な特徴、調理・盛り付け・配膳、調理用具の取り扱いなどの内容はありますが、食品表示に関する内容は記載されていません。
宮城県が使用している小学校6年生の家庭の教科書では、調理の計画を立てる学習の中に、発展課題として食品の日付け表示(賞味期限、消費期限)、JASマーク、加工食品の品質表示例が載っていますが、発展課題は必ずしも学習しなければならないというものではありません。そのため、担当教諭の判断次第で授業で取り上げる場合もあれば、取り上げない場合もありました。
(図1)は小学校6年生の家庭科の教科書の一部です。ここには、消費期限と賞味期限の定義と違い及びJASマークの説明がなされていました。特に、保存方法など家庭での安全性確保に関する正しい理解を深めることを目的としているように判断されました。
しかし、前述したようにこれらの内容は発展課題という位置づけで教科書に載っていることから、担当教諭によって授業で取り上げる内容に違いがあることも事実です。
一方、中学校において食品に関する内容の学習は、「技術・家庭」科目の家庭分野に含まれていました。食品表示に関しては、2年生の学習項目となっています。
宮城県が使用している中学校2年生の技術・家庭の家庭分野の教科書では、「食品の表示を知ろう」という題で、「食品の表示」、「食品添加物」及び「消費期限、賞味期限」についての内容が載っていました。
また、教科書のほかに技術・家庭ノート(家庭分野)を使用して、教科書の内容を整理しながら授業を進めていました(図2)。学校によってワークノートや資料集等の、教科書以外の教材の使用には差がありました。
3)若年層における食品表示制度に対する理解度
各段階の若年層における食品表示に関する知識や理解の現状を把握するために、小学校及び中学校の生徒を対象にアンケート調査を実施した結果、これらの世代は小学生、中学生を問わず「自分にとって必要な表示を見る」者が約6割を占めていました(図3)。
関心の高い表示事項としては、小中学生とも「価格」が約9割、「期限表示」が約8割と多く、次いで「原産地」及び「栄養成分」について関心が強くなっていました(図4)。
ただし、「原産地」は小学生と比して中学生は関心が低くなっているのに対し、逆に「栄養成分」は、中学生に関心が高く、その理由はダイエットのためにカロリーをなるべく摂らないようにしているからということでした(図5)。特に女子の大半がこの理由を根拠としており、その後20代女性のBMIを指標とした「低体重(やせ)」の割合の増加につながっているものと判断されました。
4)若年層に対する食育方法
小中学生がどの程度食品表示のルールを理解しているかを、(図6)を例とした簡単なクイズ方式で調査した結果、(図7)に示すように、項目によっては必ずしも十分な理解はされていませんでした。
また、アンケート調査結果によれば、中学生より小学生の方が表示に関心が高いことが注目され、またクイズ方式のようにゲーム感覚での学習方法が評価及び効果ともに期待できることも判りました(図8、図9)。
なお、表示ルールの理解度問わず、消費者が食品を供給し表示する食品企業の立場に立って、無地の食品包装紙に自由に表示させるという「表示体験試験」も、表示する企業の事情の理解ととともに、当該試験を通じて現行のルールの学習効果があることも判りました。
いずれにしても、食育基本法に示されているように、学校の教員はじめ教育分野の関係者のみならず、保護者や食品企業も一体となった総合的な食育の取組みが期待されます。
5)安全性関係表示と食育(テイクアウト製品を例に)
現在義務化されている表示項目は多々ありますが、このうちアレルギー物質と期限表示(特に消費期限)項目は安全性の観点で重要な意味を持ちます。
アレルギー表示のように対象物質の有無の判断が供給サイドに委ねられている場合、適正に表示されていれば、購入者の確実な表示確認により安全性は確保されます。その一方で期限表示は、家庭内での取り扱いが適正であることも安全性に影響することから、消費者の当該表示に対する正しい理解が求められます。
毎年の食中毒の大半が細菌・ウィルスに起因していることからも分かる通り、せっかく供給サイドにおいて適切な微生物制御がなされていた製品であっても、購入後、開封後の温度管理が不適正であれば、事故が発生するおそれがあります。
特に、消費者の微生物・ウィルスに対するリスク管理意識は必ずしも高いとは言い切れません(図10)。期限表示の適用要件が、「未開封」かつ表示された「保存方法」によることを、消費者に十分認識してもらう必要があり、開封後の適切な取り扱いに関しても学習の機会を出来るだけ作ることが求められます。
一方、外食や中食分野については、原材料が頻繁に変化することや、店員によるきめ細かな情報提供により対応可能などといった理由から表示制度が適用されていない場合が多い制度となっています。近年、外食のテイクアウトは大きな市場となっていることから、供給サイドとしてはテイクアウト製品に対する事故防止のための情報提供にも努める必要があります。
少なくとも自社の責任は十分に果たしていることを客観的に示すことができる態勢が重要です。
例えば、ハンバーガーは若年層に人気があるメニューです。学生にハンバーガーを購入後実際にどの程度で消費するかというアンケート調査をした結果、約半数が1時間以内で消費していました。同時に、消費期限はどの程度に考えているかという質問も行った結果、「1日以内」との回答が最も多かったものの、「翌日以内」又は「翌日以降」との回答も少なくありませんでした(図11)。
一方、25℃における保存試験の結果、一般細菌数(全量をホモジナイズしたもの)は(図12)の結果となりました。この結果を、5点のうち1点でも基準オーバーになった場合は消費には適さないという基準により判定すれば、(図12)に示すように、製造後1日までは消費可能であるものの、それ以上経過するものは危害を受けるおそれがあると判断されます。
他方で、学生の食味による官能検査結果を見ると(図13)に示すように、経過時間の割には評価の低下は著しくありませんでした。
こうした状況から判断されることは、食べる際の五感感覚では異常は判断することは難しく、かつ消費期限に関する自己判断基準も実際のリスク期間も含め多めに判断されている可能性が強いということです。
テイクアウトされた製品が家庭内でどのような取扱いがなされているかは不明確であり、またメーカーとしての責任も及びません。しかし、一旦事故が発生すると、クレームや責任を問われるケースも少なくありません。
現在、外食企業によってはテイクアウト製品に消費期限を表示しているところもあります。必ずしも表示に委ねる必要はありませんが、消費者のことを考えて保存方法や消費期限に関する口頭等による情報提供に努めることが必要と思われました。
6)おわりに
現在、中食と外食を含めた食の外部化率は43%を超えているといわれています。また、小売店を通じて販売されている食品は年々加工・半加工品も増加傾向にあります。すなわち、元々家庭の母親が作って家族に提供してきた食品の大半を食産業界が担っており、「母親」役を務めているとも言えます。
食品は物質のみならず安心と満足とともに提供されるものであり、これらが叶って健全な食生活の実現にもつながるものです。
こういう現代の状況を踏まえた場合、食品の供給サイドは必要かつ正確な情報提供に努めることは当然ですが、特に情報伝達の媒体としての表示を頼りにすることが多いことから、消費者にとってわかりやすく表示することが重要であり、また併せて消費者に表示のルールについて正しい理解をしてもらう努力も必要と判断されます。
すなわち、食育の担い手として食産業界の役割は大いに期待されるところであり、またすでに日常生活の中で「母親」役を担っている立場からも、その教育効果はきわめて大きなものであり、その結果として得られる両者間の信頼関係の構築を通じて、産業界の更なる発展につながることも事実であると確信している次第です。
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
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-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
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-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)