理事長からの食品表示便り -分かりやすい表示と情報の重要性の整序- |
1. 一層増える義務表示事項
本年3月29日に第39回消費者委員会食品表示部会が開催され、消費者庁から同月22日に諮問された加工食品の原料原産地に関する食品表示基準案に対する審議が開始されました。また、同月27日から、前記食品基準案に関する「食品表示基準の一部を改正する内閣府令(案)」に関するパブリックコメントを募集し、先月25日に締め切られました。今後はこれらパブリックコメントで寄せられた意見が整理・解析された上で、来月8日の第40回食品表示部会において、実質的な審議がなされる予定です。
一方、栄養成分表示については、食品表示基準の施行から5年後の平成32年4月から義務化される見込みです。
仮に、加工食品の原料原産地表示や栄養成分表示が義務化された場合、容器の表示可能面積が小さくなる傾向の中で、表示するサイドにとって一層表示スペースの確保に苦労するとともに、消費者にとっても表示が見にくくなることが懸念されています。
こうした状況を踏まえ、分かりやすい表示に関するこれまでの取組経緯について整理してみます。
2. 表示の見やすさに関する食品表示一元化検討会における検討内容
食品表示一元化検討会において、新しい食品表示制度の在り方として、表示の見やすさについても検討されました。
すなわち、同検討会報告書において、「新たな食品表示制度の検討に当たっては、その表示が、消費者がその表示を見付け、実際に目で見て(見やすさ)、その内容を理解し、活用できる(理解しやすさ)ものになっているか、否かの視点をもって検討を行う必要がある」としています。
また、表示の見やすさ(見付けやすさと視認性)について、当時のWEBアンケート結果において、表示事項毎にその分かりにくい理由を質問したところ、栄養表示の強調表示を除く全ての表示事項で「文字が小さいため分かりにくい」との回答が最も多く寄せられました。
また、食品表示をより分かりやすく活用しやすいものにするための観点から、文字の大きさと情報量について質問したところ「小さい文字でも多くの情報を載せる」が27.4%であったことに対し、「表示項目を絞り、文字を大きくする」が72.6%」(図1)、また、後述の内閣府調査からも、「見やすさの観点から文字の大きさについて改善する必要性が高いと考えられる」としています。
さらに、「今後、高齢化が進展する中で 、高齢者の方々がきちんと読み取れる文字のサイズにすることが特に必要であり、このような観点からも、文字を大きくすることの必要性は高いと考えられる(文字のサイズについて、現行では原則8ポイント以上とされている。)」としており、「このため、現行の一括表示による記載方法を緩和して一定のルールの下に複数の面に記載できるようにしたり、一定のポイント以上の大きさで商品名等を記載している商品には義務表示事項も原則よりも大きいポイントで記載するなど、食品表示の文字を大きくするために、どのような取組が可能か検討していく必要がある」としています。
3. 消費者委員会食品表示部会での審議
内閣府の第3次消費者委員会食品表示部会に設置された「加工食品の表示に関する調査会」において、表示レイアウト及び文字の大きさについて検討がなされました(平成26年3月20日)。
「論点1」として、食品表示の文字の大きさについて、@表示可能面積、A文字間隔、行間、文字の字体等による影響及びB栄養成分表示義務化に伴う義務表示事項の増加を踏まえ検討を行う。
「論点2」として、レイアウトの変更について、従来の表示様式(一括表示)の必要性について検討を行うことにしました。
その結果、次の方針が示されました。
(1) 基本的に文字を大きくすると表示は見やすくなるが、表示可能面積には限りがあるため、
実行可能性を考慮し、文字の大きさを定める。
(2) 具体的には、現在、文字の大きさは5.5ポイント以上と8ポイント以上で規定されているが、
特に見にくいと考えられる5.5ポイント以上の文字の大きさの拡大を検討する。
(3) また、文字の大きさの拡大に加え、栄養成分表示の義務化に伴う表示面積の拡大も踏まえ、
省略規定が適用される面積の拡大を検討する。
その結果、次の基準案が示されました。(図2)
@ 容器包装の面積が30cm2以下の場合→文字の大きさは5.5ポイント以上
A 容器包装の面積が30cm2より大きく、かつ、表示可能面積が150cm2以下の場合
→文字の大きさは6.5ポイント以上
一方、文字の大きさを5.5ポイントから6.5ポイントに拡大すると、図3のように表示が必要となる面積が拡大します。
また、栄養成分表示の義務化に伴い、必要となる表示面積が図4の例のように拡大します。
こうした状況を踏まえ、「これまでの30cm2以下であった省略規定の面積を、50cm2以下に変更する」という基準案が示されました(図5)。
以上のように、文字の大きさについては、「容器包装の面積が30cm2より大きく、150cm2以下の場合は文字の大きさは6.5ポイント以上とする」とともに、省略規定として「容器包装の面積が30cm2より大きい場合、文字の大きさの拡大の他、栄養成分表示の義務化に伴う表示面積の拡大を踏まえ、省略規定が適用される表示面積を30cm2から50cm2に拡大する」という新基準案が提案されました。
しかし、調査会における意見として、分かりやすい表示については、例外的な小面積の場合に限らず、「8ポイント以上」という原則の基準も含めて検討すべきであり、別途本格的な検討を行うことが適当であるということになりました。
4. 情報の重要性の整序
ところで、分かりやすい表示にするため文字を大きくするには、現状の表示としての情報量を見直すことも考えられます。
平成23年12月に消費者庁が消費者を対象に実施したWEBアンケート調査によると、商品に表示されている事項の全てを見ている消費者は必ずしも多くはないという結果となりました。このことを踏まえ、食品表示一元化検討会の報告書では、「表示事項全ての情報が消費者に伝わることを前提として、できる限り多くの情報を表示させることを基本に検討を行うことよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わるようにすることを基本に検討を行うことが適切と考えられる」としています。
また、「この『より重要な情報』、すなわち、消費者が求める情報には様々なもの があり、消費者一人一人にとって、その重要度も様々である。しかしながら、表示義務を課すことにより行政が積極的に介入すべき情報のうち、全ての消費者に確実に伝えられるべき特に重要な情報として、アレルギー表示や消費期限、保存方法など食品の安全性確保に関する情報が位置付けられると考えられる」と報告しています。
さらに、情報の重要性は食品によっても異なることも指摘しています。すなわち、「加工食品の場合、その内容に関する情報が外見上だけでは分かりにくいことから、多くの情報の提供が必要になると考えられる。このため、食品表示制度の導入に当たっては、まず、容器包装入りの加工食品がその対象となった。現在でも、加工食品は、原則として、全ての容器包装に表示が義務付けられている。さらに、加工食品については、調理済み食品の増加等により表示すべき情報量が増加しており、また、少子高齢化や単独世帯の増加等の背景もあり、少人数向けのパッケージの小さい食品が今後とも増加していくことが考えられる。これに対して、生鮮食品の場合、商品の外見自体が情報であって、経験のある消費者であれば、外見からでもある程度は、その内容に関する情報を得ることができる。実際にも、生鮮食品については、POP等による表示であっても、現在定められている表示事項を確実に提供する上で特段の問題は生じていないと考えられる」としており、食品表示制度の検討に当たっては、情報の重要性に違いがあることを前提とした制度設計とすることが適切としています。
消費者への情報提供を充実させていく上で、商品の容器包装への表示が良いのか、むしろ、代替的な手段によって商品に関する情報提供を充実させた方が良いのか、事業者の実行可能性に影響を及ぼすような供給コストの増加があるのか、さらに、監視コストその他の社会コストなど総合的に勘案した上で、消費者にとってのメリットとデメリットをバランスさせていくことが重要です。
5. 今後の検討方向
食品表示は、如何に有用なルールであっても活用する消費者にとって分かりやすいものでなければなりません。
上記のように、分かりやすい表示のためには、文字の大きさはもちろんのこと、情報の重要性の整序という観点での検討が前提になるとともに表示以外の情報媒体の活用についても議論の対象とすべきです。
また、分かりやすい表示は必ずしも文字を大きくするのみならず、現行の基準にもあるように、背景の色とのコントラストや文字間隔なども影響します。
一般社団法人ユニバーサルコンサルティングデザイン協会(UCDA)において対応しているこうした分野の客観的な評価に関する取組もあることから、公的な機関での本格的な調査を行う意義は十分あると思われ、今後の検討に期待しています。
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
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