理事長からの食品表示便り


-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)-
名刺記載例

 本年も残りあとわずかになってきましたが、皆さまお元気でお過ごしでしょうか?
 今年を振り返りますと、食品表示制度に関する動きとしては、やはり「加工食品の原料原産地表示」に関する食品表示基準が施行されたことが大きな出来事だったと思います。
 当課題につきましては、昨年11月に公表された消費者庁・農林水産省共催による検討会の取りまとめを受けて、本年3月に食品基準案が諮問され、パブリックコメントが求められるとともに、消費者委員会食品表示部会で5回にわたり審議された結果、10の前提条件付きで答申がなされ、9月から施行されました。
 原則として、全ての加工食品が対象となり、また「又は表示」「大括り表示」などルールを正しく理解することが重要な課題となっています。
 また、本年4月からは、遺伝子組換え表示に関する検討会が設置されて検討がなされており、これらも気になるところです。
 こうした状況も踏まえ、本年11月に、「見やすい、わかりやすい、伝わりやすい」コミュニケーションの実現と普及・啓発を目指す「一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)」主催の「UCDAアワード2017」におけるセミナーで、当協会理事長として標記の講演の機会がありましたので、その概要を2回に分けてご報告します。

1 食品表示の機能と意義
 まず、食品表示の機能と意義ですが、
◎ 食品表示は、食品の提供サイドと消費者を結ぶ信頼の絆(きずな)であると思います。
◎ また、食品表示のルールを活用するのは「消費者(お客様)」ですが、事業者は、消費者以上にルールを理解しておくことが必要であることも事実です。
◎ 更に、事業者は、食品表示に関して法令の方向ではなく、消費者の方向を注視すべきであり、具体的にはどういう情報をどのように分かりやすく伝えるかという認識を常に持つべきです。
 当協会が果たすべき使命は、消費者が、日常生活において食品表示のルールを正しく理解・活用するとともに、事業者も、食品の提供者の責務として、製品とセットにして必要で重要な情報を如何に表示として伝えることが出来るかの力量を、「検定」という指標により、客観的に評価することと認識しています。

2 食品表示制度の変遷
 食品表示のルールは、いくつかの法令に基づき規定されています。特に、食品衛生法、JAS法及び健康増進法(前身は栄養改善法)は、計量法や景表法のように工業製品など食品以外も対象としているのに対して、一般的な食品全体を対象としており、食品表示制度に大きな影響力を有しています。
 この3法は、いずれも戦後の昭和20年代に制定され、当時は表示についてさほど規定されていませんでした。いわゆる「質」よりも「量」の確保が求められた時代だったからです。
 しかし、次第に食生活か豊かになるにつれて、「量」から「質」への転換がなされ、情報としての表示が重要な位置づけとなってきました。
 そのターニングポイントの象徴的出来事が、昭和35年の「にせ牛缶事件」です。東京の主婦が購入した牛肉の大和煮の缶詰にハエが1匹入っていたため保健所に届けたのですが、ハエの混入の問題以外に、検査の結果、使用されていたのは牛肉ではなく鯨の肉で、他の20社を調査したところ、18社が牛肉ではなく、安価な鯨肉や馬肉が使われていたというものです。
 今では考えられない事件ですが、当時の商慣習としてはよく見られた出来事だったようです。
 これを機会に、我が国では消費者運動が活発化されました。消費者は事業者に比べて、資金力や情報量等の点で格段のハンディがあることから保護される制度が必要という理念のもと、昭和43年に消費者保護法が制定されました。
 また、これに先立つ昭和37年には景品表示法が制定されました。
 その後、特に社会情勢の変化や消費者ニーズの高まり等により、義務表示対象の食品表示事項が増えて行ったのは平成に入ってからです(図表1、2)。
 一方、消費者保護法は、時代の変遷とともに、消費者はもはや「保護」されるのではなく、自立すべきであり、そのための権利を保証する必要があるという根拠のもと、平成16年には、基本理念として消費者の権利を規定した消費者基本法が制定されました。




3 表示可能面積の減少
 ところで、国勢調査によれば、核家族化の進展等により、1人又は2人世帯は30年間で5割も増え、全体の6割を占めることになっています(図表3)。2人世帯は、例えば夫婦二人ですとどちらかが宴会や出張となれば1人世帯となり、きわめて1人世帯に近い位置づけです。こうした状況を踏まえると、当然ながら、販売される1個当たりの食品の量も少量化し、表示可能面積も縮小化してきています。それに反比例して表示義務事項が増大するとなれば、文字の大きさも小さくし、任意の表示事項も減らさざるを得ません。図表4は、仙台の醤油店の醤油ラベルの変遷です。時代と共に表示事項が増え、結局、セールス面で大事な荷印を減らさざるを得なくなってしまいました。




4 食品表示の一元化と新制度への移行ステージ
 食品表示制度の一元化が実現したのは、消費者庁が設立され、それまで個別法及び個別省庁が企画・立案や執行を別個にしていた食品表示行政が同庁に移行したためです。
 具体的には、前記3法のうち食品表示に関する分野の一元化が図られました。
 これまで、3法間では、定義の相違や複数の法律に共通の表示規制項目があるなど分かりづらい制度となっていました(図表5)。


 新たな食品表示制度への移行をステージ別に分けて見ましょう。
 まず、一元化するために、平成23年9月に消費者庁に「食品表示一元化検討会」が設置され、約1年間にわたり検討された結果、翌平成24年8月に報告書がまとめられました。これが第1ステージとすれば、第2次ステージはこの報告書等を踏まえて策定された食品表示法案が国会で審議され、平成25年6月に公布されたことです。
 更に、同法に基づく食品表示基準が制定・施行されたことが第3ステージと言えるのではないでしょうか。ここには、機能性表示制度も含まれています。
 そして、現在に至るまでの間なされ、食品一元化検討会等において幾つかの「宿題」として残された課題についての検討段階を第4ステージと言えます(図表6)。


 すなわち、食品表示法の制定及び同法に基づく食品表示基準の施行により、実質的な一元化が図られたとも言えます。
 ここで一元化のイメージですが、図表7に示したように、食品衛生法、JAS法及び健康増進法の3法の規定うち食品表示に関した規定だけが抜き出されて食品表示法という新法として一つにまとめられた形になっています。ただし、新制度への移行を機会に、法律では「差止請求権」や「申出」など、食品表示基準では「栄養表示の義務化」や「製造所固有記号制度の改正」なとの新たな内容が盛り込まれています。
 図表7に示したように、残された3法と食品表示法との関係は、3法については食品関連事業者が守らねばならないことについて規定されており、それが適切に対応していれば消費者に的確な食品が提供されることになっています。
 一方、それを受け取った消費者が食品表示法に基づく表示を正しく理解し活用することにより健全な食生活が実現することになります。
したがいまして、食品の供給サイドと消費者サイドの対策が相まって効果があるということになります。

(「その2」に続く /2017年11月27日現在)



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