理事長からの食品表示便り


遺伝子組換え食品の表示制度の動向について
―その1消費者の表示に対する意識―
名刺記載例

 寒い日が続いていますが、日々確実に春の兆しも見え始めた今日この頃、皆さま方には年度末でお忙しいことと思います。
 さて、昨年9月に新たな加工食品の原料原産地表示基準が施行されましたが、これは消費者基本計画に基づく食品表示に関する「要検討事項」の一つとして位置づけされていたものです。「要検討事項」としては、その他「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取り扱い」、「インターネット販売の表示」、「遺伝子組換え食品の表示」や「添加物の表示」も対象となっています。
 このうち、「機能性」と「インターネット」については、検討会・懇談会を開設して検討が行われました。そして、その検討結果を踏まえガイドライン等による対応がなされることになりました。
 一方、「遺伝子組換え食品の表示」に関しては、平成29年4月に消費者庁において検討会(座長:湯川剛一郎 東京海洋大学教授)が設置され、検討が続けられてきました。以下、これまでの検討経緯の概要についてご紹介させていただきます。

1. 検討課題として位置づけられた経緯
 遺伝子組換え表示につきましては、平成23年9月から約1年間開催された「食品表示一元化検討会」において残された課題として位置づけられました。
 同検討会は、今後の食品表示制度に関する基本的なあり方などについて検討され、その検討結果が現行の食品表示法及び同法に基づく食品表示基準の骨格にもなっています。
 同検討会は、前後10回開催されましたが、5回を終えた時点でそれまでの検討内容を「中間論点」として整理し、パブリックコメントを求めました。
 その結果は、平成24年4月14日開催の検討会で「中間論点整理についての意見募集の概要」として報告されています。
 具体的には、意見募集期間は平成24年3月5日〜4月4日、意見総件数1,084件、ただし、取りまとめに当たっての留意点として、1件の意見に論点等ごとの複数の趣旨が含まれていたものについては、各趣旨に対応した論点等ごとにそれぞれ計上(よって、同一の意見が複数個所に計上されていることあり)、という結果となりました。
 寄せられた意見の中で「遺伝子組換え表示」に関しては、「論点1:新たな食品表示制度の「目的」をどのような内容とするべきか」に対する意見として「その他」として整理されています。主な意見の内容と意見数は以下の通りです。
 ・遺伝子組換え食品の表示も義務化すべき(165件)。
 ・遺伝子組み換え食品について、本中間論点整理においては触れられていない。消費者が遺伝子
  組み換えでない商品を選択できるようなわかりやすい表示とすることは重要な論点(26件)。
 ・「原料原産地」や「遺伝子組換え」については、商品の安全性には関与しない項目であると
  考えられるので、任意表示やメーカー問い合わせでの対応で問題ないと考える(4件)。
 すなわち、検討会としては当初から遺伝子組換え表示に関する検討は想定していなかったのですが、パブリックコメントでは200件近くというかなりの数の意見が寄せられ、全意見(1,084)に占める割合も高く、国民の関心の強さが示されたという経緯があります。
 ちなみに、このことは「添加物」にも同様のことが言え、両者とも「要検討事項」として消費者基本計画(平成27年3月24日閣議決定)に位置づけられました。
 なお、添加物については来年度に検討されると思われます。ただし、必ずしも「検討=検討会を設置しての検討」ということではなく、例えばアンケート調査等による状況把握も「検討」になり得えます。

2. 現行の遺伝子組換え食品の表示制度
 現行の遺伝子組換え食品の表示のルールは、従来のものと組成等が同等のもの(農産物等)について、「遺伝子組換えのものを分別」して使用した場合は「大豆(遺伝子組換え)」等の表示が、「遺伝子組換え不分別」の場合は「大豆(遺伝子組換え不分別)」等の表示が義務づけされています。
 一方、「遺伝子組換えでないものを分別」及び「組み換えられたDNA等が検出不可」の場合は任意表示となっています。また、従来のものと組成等が著しく異なる場合は義務表示となっています(図1)



 なお、現在、遺伝子組換え表示が義務付けられている品目は、8農産物とこれらを原材料とした33加工食品群です(表1)。主な表示義務対象品目は、豆腐、納豆、みそ及びコーンスナック菓子であり、現在のところ、しょうゆ、大豆油等の植物油脂及び液糖などは義務表示の対象外となっています。
 対象外とする理由としては、以下の通りです。
 ・組換えDNA等が、発酵や熱変性等により科学的・技術的に検出できないため、公的機関に
  よる事後的な確認等が困難であり、虚偽表示の横行等表示の信頼性及び実行可能性を
  欠くこととなること。
 ・組換えDNA等が、加工工程により除去・分解され、食品中に存在しない場合には、遺伝子
  組換え農産物を原材料とするものと非遺伝子組換え農産物を原材料とするものとの間で、
  製品レベルでは科学的に有意な差がなく、区別した表示を義務付けることは困難であること。



 ところで、食品表示法の目的において、食品に関する表示の役割として図2のように、@食品を摂取する際の安全性の確保、A自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保の二つが示されていますが遺伝子組換え食品の表示目的は、Aとなっています。



3. 遺伝子組換え食品に対する消費者の意識
 食品の表示を活用する主体は消費者で、消費者が遺伝子組換え表示に関する制度やルールについて、どの程度理解しているかはきわめて重要なことです。たとえ事業者がルールに則し、努力して適正に表示したとしても、消費段階でその内容について正しく理解されなかったり、活用されなかったりすると、制度自体が意味のないことになってしまうからです。
 平成28年度に消費者庁が実施した「遺伝子組換え食品に関する消費者意向調査」によると、「表示義務対象品目」に関する認知度及び「DNA等が検出できない品目を表示不要としている」ことに関する認知度は共に3割、「遺伝子組換え不分別」である旨の表示に関する認知度も3割にとどまっており、遺伝子組換え表示制度が十分に周知されているとは言い難い状況でした。
 また、「遺伝子組換えでない」表示を見たことがある割合が7割である一方、「遺伝子組換え不分別」表示を見たことがある割合が3割にとどまっています。これは流通段階で、「遺伝子組換えでない」表示がされた食品に比べて、「遺伝子組換え不分別」表示がされた食品が極めて少ないことが背景にあると考えられます(図3)



 一方、前記のように、遺伝子組換え食品の表示目的は、自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保ですが、消費者庁のアンケート調査によれば6割以上の消費者が安全性の確認を目的に見ているという結果となっています(表2)



 これは、遺伝子組換え食品=安全でないという認識を持つ消費者がいるとともに、市販の食品には「遺伝子組換えでない」表示のみが目につき、我が国には遺伝子組換え農産物は一切輸入されていないと認識している消費者もいることを示唆しています。しかし、このことを、消費者の認識不足という捉え方ではなく、実態として真摯に受け止めた対応策が必要です。
 我が国は遺伝子組換え農産物の生産国から多くの大豆やとうもろこしなどを輸入しており、現在、遺伝子組換え農産物は商業栽培されていないものの、全世界における遺伝子組換え農産物の作付面積は増加傾向にあり、平成27年(2015年)は1億 7970 万ヘクタールであるほか、平成 27 年(2015 年)の米国における遺伝子組換え農産物の作付面積割合は、現行制度施行時の平成13年(2002年)に比べて大幅に増加しています。
 また、以上のことから、輸入農産物に対する遺伝子組換え農産物の割合が増加している可能性が示唆されます(図4,表3)

 こういう状況の中、消費者からは食品の選択の指標としての遺伝子組換えに関する情報提供が一層求められています。
 我が国で遺伝子組換え表示制度が導入されてから約17年が経過していますが、前記の消費者意向調査のように、表示義務対象品目の認知度、「遺伝子組換え不分別」である旨の表示に関する認知度はいずれも3割にとどまっており、遺伝子組換え表示制度が十分に周知されているとは言い難い状況です、また、そのことが、遺伝子組換え食品に対する消費者の不安を増幅させている面もあると考えらます。
 いずれにしても、遺伝子組換えとは何かということを一言で説明しにくいことも、理解を深めることの障害になっています。消費者の特性に応じ、時間をかけて、きめ細かな普及・啓発が望まれます。





(2018年2月28日現在)




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