理事長からの食品表示便り

-(続々)分かりやすい表示を目指して-

理事長

今年も残りわずかとなりましたが、皆様お元気にお過ごしでしょうか。
前回において、分かりやすい表示に関する検討経緯の一部を紹介しましたが、その後第46回(10月10日)、第47回(11月8日)及び第48回(11月27日)の消費者委員会食品表示部会において、本課題に関する審議がなされました。

こうした状況も踏まえ、本号では引き続きこの課題について解説することにします。また、それに先立ち、11月9日に食品表示法の改正案が衆議院に諮られ、審議の結果11月22日に可決され、参議院に送られましたので、その概要についてもご報告します。

1 食品表示法の改正

本年11月9日に衆議院に上程された食品表示法の改正案は、審議の結果11月22日に可決され、参議院に回されました。今回の改正は、平成25年に制定された同法にとって実質的に初めての改正となります。

今回の改正は、本年6月13日に改正された食品衛生法の改正内容の一部である「食品のリコール情報の報告制度の創設」と連動したものです。

すなわち、食品衛生法の改正により、食品衛生法に違反する食品や食品衛生法違反のおそれがある食品については、自主回収(リコール)した場合の情報を、行政が確実に把握し、的確な監視指導や消費者への情報提供につなげ、食品による健康被害の発生を防止するため、今後は事業者が行政へ届出することが義務付けされることになりました。

現在、食品表示法では、食品リコール情報を行政機関に届け出る仕組みがありません(一部の地方公共団体は、条例等に基づき、食品リコール情報を届出させています)。

なお、前記の食品衛生法改正の国会審議の際、参議院・厚生労働委員会において、「アレルゲン等の安全性に関わる食品表示法違反による食品リコール届出について早急に検討すること」について附帯決議がなされています(図1)。

図1 食品表示法の一部を改正する法律案の概要

具体的に改正に関連する条文内容は、以下のとおりです。

  1. 1) 食品関連事業者等は、第六条第八項の内閣府令で定める事項について食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売をした場合において、当該食品を回収するときは、遅滞なく、回収に着手した旨及び回収の状況を内閣総理大臣に届け出なければならないものとすること。(第十条の二第一項関係)
  2. 2) 内閣総理大臣は、第十条の二第一項の規定による届出があったときは、その旨を公表しなければならないものとすること。(第十条の二第二項関係)
  3. 3) 第十条の二第一項の規定による届出をせず、または虚偽の届出をした者は、五十万円以下の罰金に処するものとすること

なお、この改正に伴う届出義務の施行は食品衛生法に準じて、3年を超えない時期からとなっています。

2 分かりやすい表示に関する審議経緯

前回において、現在消費者委員会食品表示部会で審議されている課題の一つに「今後の食品表示の全体像」が挙げられていることを申し上げました。

この課題は、次期消費者基本計画の内容にも関連した重要なテーマです。また、このテーマに関しては、これまでも食品表示一元化検討会等においても検討されてきたことで、その一部についても解説させていただいたところです。以下、前回の解説の続きをさせていただきます。

(1)食品表示一元化検討会におけるパブリックコメント内容

平成23年9月から24年8月まで12回、延べ34時間以上の検討時間をかけた食品表示一元化検討会の中間時点(第6回目)において、それまでの検討課題を「中間論点」としてまとめ、パブリックコメントを求めました。その内容は以下の5点でした。

  1. 論点1: 新たな食品表示制度の「目的」をどのような内容とするべきか。
  2. 論点2: 新たな食品表示制度における表示事項はどうあるべきか。
  3. 論点3: 食品表示に関する適用対象となっていない販売形態についてどう取り扱うべきか。
  4. 論点4: 加工食品の原料原産地表示について、どのように考えるべきか。
  5. 論点5: 栄養表示を義務化すべきか。仮に義務を課すとした場合、対象となる栄養成分等はどのように考えるべきか。

このうち、分かりやすい表示に関する内容は「論点2」に当たります。

パブリックコメントは、意見募集期間が平成24年3月5日〜4月4日の1か月で、寄せられた意見の総件数は1,084件でした。

この結果、論点2について寄せられた意見を整理したものが図2です。

図2-1 新たな食品表示制度における表示事項はどうあるべきか。
図2-2 新たな食品表示制度における表示事項はどうあるべきか。

図の左側の「論点についての主な考え方」は、検討会での主な意見を集約したもので、この意見に関連して寄せられたコメントを整理したものが右側の内容です。この中で、主な意見は以下のとおりでした。

  • 〇表示事項を絞り込み、文字を大きくして消費者にとって見やすく分かりやすくすることを最優先とする。(42件)
  • 〇義務表示事項は一般的事項や健康危害に関連する事項(または、『「公正な取引」及び「衛生上の危害防止」に真に関わる事項』)に限定し、それ以外の事項は任意表示とすべき。(51件)
  • 〇現在の表示事項は最低限維持しつつ、義務表示事項の範囲はひろげていくべき。(53件)
  • 〇消費者に分かりやすく、誤認しない用語の定義設定を行い、統一を図る必要がある。(34件)
  • 〇全ての義務表示事項を容器包装に表示することは原則として維持されるべき。(60件)
  • 〇容器包装以外の表示媒体(WEBサイトやQRコード)の活用については、それらの手段に対応できない消費者や事業者が多数存在する現状において、義務表示事項の手段として採用することは適切でない。(33件)

以上、比較的多かった意見を示しましたが、パブリックコメントは必ずしも数の多い意見を重視するものではなく、委員会において気が付かなかった貴重な意見にも注目すべき位置づけのものです。たとえぱ、「任意表示事項については、各事業者の自主的な取組みに任せるべきであると考えるが、事業者団体による情報提供の促進施策としての位置付けも考えられる。(2件)」などもそれに該当すると思われます。

(2)文字の大きさと情報量に関する表示シミュレーション

食品表示一元化検討会においては、委員会での検討や前記のパフコメの意見を踏まえ、次のような2つの案に基づいて、実際の表示例を示して検討してみました。

  1. (案1) 現在の表示事項を原則として維持した上で、さらに消費者に関心のある事項を容器包装に記載する。
  2. (案2) 容器包装については予備知識の少ない一般の消費者でも理解できる内容を中心に記載し(現行より簡素化)、アレルギー表示等健康に直接関連する事項をわかりやすく表示する。一方、その他の事項は容器包装以外の媒体を活用できることとする。この案をもとに、表示要件を作成したものが図3です。
図3 表示のイメージ(案) 凡例

すなわち、「案1」は①案、「案2」は②案という条件にして、実際の品目のうち「即席カップめん」に適用してみました。その結果、図4のようになりました。

図4 表示のイメージ(案)@ 即席カップめん

ちなみに、食品表示一元化検討会において実施した消費者対象の「情報量と文字の大きさ」に関するアンケート調査結果によれば、図5のとおり「表示事項を絞り、文字を大きくする」が73%を占めました。いずれにしましたも、本検討に当たっては、このように実際の例示で比較するとわかりやすいかと思われます。

図5 食品表示の文字の大きさと情報量に関する消費者の意向

(3)消費者委員会食品表示部会における文字の大きさの検討

食品表示一元化検討会において残された課題として「文字の大きさ」に関する検討がありました。その後、消費者委員会食品表示部会の第4回加工食品の表示に関する調査会において食品表示基準案の検討がなされた際に、本課題についても検討された経緯があります。

この時は、見やすい食品表示の考え方(文字の大きさについて)に関して、次の方針に基づき検討がなされました。

  1. ①基本的に文字を大きくすると表示は見やすくなるが、表示可能面積には限りがあるため、実行可能性を考慮し、文字の大きさを定める。
  2. ②具体的には、現在、文字の大きさは5.5ポイント以上と8ポイント以上で規定されているが、特に見にくいと考えられる5.5ポイント以上の文字の大きさの拡大を検討する。
  3. ③また、文字の大きさの拡大に加え、栄養成分表示の義務化に伴う表示面積の拡大も踏まえ、省略規定が適用される面積の拡大を検討する。

この方針に基づき提案されたのが、図6図7です。

図6 文字の大きさを5.5ポイントから6.5ポイントに拡大する案(必要となる面積が拡大)
図7 省略を可能とする面積の拡大案

すなわち、容器包装の面積が現行の30cm2以下の場合、文字の大きさは今までとおり5.5ポイント以上にすることが可能としますが、容器包装の面積が30cm2より大きく、かつ、表示可能面積が150cm2以下の場合には、文字の大きさは6.5ポイント以上とするという案です。

この場合、当然のことですが、文字の大きさを5.5ポイントから6.5ポイントに拡大すると表示に必要となる面積が拡大します。また、栄養成分表示の義務化に伴い、必要となる表示面積も拡大します。したがってこの案では、省略規定を可能とする面積を30cm2以下から、50cm2以下に変更することにしました。

このような提案に基づき検討がなされましたが、前記の新基準が施行された場合に、実際の対象となる食品がどの程度でどれだけの効果が期待できるのか、あるいは原則である8ポイント以上の規定も含めた検討が必要等との意見が出され、結果この案件は別途本格的な検討が必要との結論となり、現在まで「宿題」として残っています。

(4)食品表示一元化検討会の報告内容

ところで、本課題について食品表示一元化検討会の報告書には以下のように取りまとめています。

  • ◎情報の重要性は消費者や食品によって異なる →表示されている事項の全てを見ている消費者は必ずしも多くはない。
  • できる限り多くの情報を表示させることを基本に検討を行うことよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わるようにすることを基本に検討を行うことが適切(表示義務として行政が積極的に介入すべきは、特に安全性確保に関する情報)

これらを踏まえて情報の重要性に違いがあることを前提とした制度設計が重要。

表示の見やすさ(見付けやすさと視認性)については、

  • ◎Webアンケート結果において、栄養表示の強調表示を除く全ての表示事項で「文字が小さいため分かりにくい」との回答が最も多い。
  • ◎文字の大きさと情報量について、「小さい文字でも多くの情報を載せる」が27.4%、「表示項目を絞り、文字を大きくする」が72.6%。

これらにより、高齢化が進展する中で、高齢者の方々がきちんと読み取れる文字のサイズにすることが特に必要であり、文字を大きくすることの必要性は高い。一括表示による記載方法の緩和など、食品表示の文字を大きくするために、どのような取組が可能か検討していく必要。

義務表示の範囲については、

  • ◎安全性確保を優先した検討が必要、消費者にとって真に必要な情報の検証が必要
  • ◎表示を義務付ける以上、基本的に、規模の大小を問わず全ての事業者が実行可能なものであ るか否か、また、表示内容が正しいか事後的に検証可能なものであるか否かの検討が必要
  • ◎商品の容器包装への表示が良いのか、むしろ、代替的な手段によって商品に関する情報提供を充実させた方が良いのか、実行可能性と供給コスト等消費者のメリット・デメリットのバランス検討

以上のようなこれまでの検討経緯を踏まえ、本課題は現在消費者委員会食品表示部会に引き継がれています。11月27日に開催された第48回の部会でも、「将来の食品表示の全体像」が議論されました。

わかりにくい表示の原因としてアンケート調査によれば「表示事項が多すぎる」「文字が小さい」との意見が多く出されていることから、表示事項に「優先順位」をつけることについての審議がなされ、インターネット等他の媒体の活用の案も出されましたが、表示可能なスペースの活用も含め一括表示の見直しや文字の大きさだけでなくフォントやコントラスト等の要素の検討など、まずは現行で対応できるところから検討すべきとの意見が出されていました。

なお、本課題は、次回以降の遺伝子組換え表示の検討の後にさらに続けられることになっています。

(以上平成30年11月30日現在)

-(続)分かりやすい表示を目指して-(平成30年9月30日)
-栄養成分表示について-(平成30年7月31日)
-分かりやすい表示を目指して-(平成30年6月30日)
-新たな食品表示基準の動向について-(平成30年5月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その2 検討結果と今後のスケジュール― (平成30年3月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その1 消費者の表示に対する意識― (平成30年2月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)- (平成29年12月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)- (平成29年11月27日)
-加工食品の原料原産地表示基準の答申及び施行に関しての留意点- (平成29年8月25日)
-加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- (平成29年8月1日)
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
-分かりやすい表示と情報の重要性の整序- (平成29年4月30日)
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
-若年層における食品表示教育の現状- (平成29年3月1日)
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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