食品表示検定活用事例

景品表示法とは「表示」と「実際」を合わせること

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光和総合法律事務所様

  • 弁護士・上級食品表示診断士 渡辺 大祐様

光和総合法律事務所は企業法務を総合的に取り扱っている事務所です。パートナー弁護士である渡辺大祐氏は、特に、景品表示法(景表法)と食品表示法に精通しています。食品表示は食品表示法と景表法が密接に関連しますが、渡辺氏は、その架け橋となる存在として業界内でも注目されています。
また、食品表示検定協会の関連団体「食品表示活用研究会」の会員であり、世話人としても活躍しています。今回は、渡辺氏に法曹界から見た食品表示法と景表法の現状についてお話を伺いました。

弁護士としての経歴を教えてください。

渡辺 2012年に弁護士登録をして、いわゆる企業法務を全般的に取り扱っております。2018年から公正取引委員会(公取委)に出向し、実際の行政処分事案や、被疑事案の立入検査等を担当させていただくことで、独占禁止法等の競争法分野の知見を深めました。その後、消費者庁に出向し、景品表示法に関連する業務に従事させていただきました。他には、いわゆる危機管理・不正調査・通報窓口業務等も携わらせていただくことが多いかと思います。

消費者庁でのご経験について、もう少し教えてください。

渡辺 消費者庁表示対策課に出向したのは2020年4月からで、最初の2年間は、景品・表示調査官として、事件調査・執行業務を行いました。その後、景表法検討プロジェクトチームの室長補佐として、確約手続や直罰を導入する令和5年改正景表法の立案業務を担当しました。これらの経験は本当にかけがえのないものであり、景表法にまつわる法的問題を検討する際の礎となっています。

景表法と食品表示法の違いについて、詳しく教えてください。

渡辺 食品表示に関係する法律はいくつかあると思いますが、その中でも、景表法における表示規制は、「こういう表示はしてはいけません」というように、表示を禁止するルールが規定されています。一方、食品表示法における表示規制は「これを表示してください」というように、特定の事項について表示を義務付けるルールが規定されています。このように、両者の規定する内容が異なっており、検討する際には注意が必要です。
例えば、食品の容器包装の裏面の一括表示欄における内容については食品表示法上特段問題なかったとしても、表面で一般消費者が誤認するような虚偽・誇大な表現がなされているがために景表法の行政処分を受けたというような事例は珍しくありません。

事業者にとっての景表法への理解はどのように進めるべきでしょうか?

渡辺 やはり、一般消費者がその表示を見てどのような印象を抱くかについて留意する必要があると思います。事業者様を含めたその業界の方であれば誤認しないだろうというようなものでも、一般消費者からすれば誤認するかもしれないという発想をお持ちいただくことが重要であると感じています。また、広告物の作成に複数の部署の方が関与する場合には、情報や認識の齟齬が発生しないようにする必要がありますし、その他、社内での研修や教育を通じて知識を共有し、適切な表示方法を学ぶことも重要だと思います。

いわゆる健康食品や機能性表示食品に関して、特に問題になるケースはありますか?

渡辺 「これを摂取すれば1ヶ月で〇〇キロ痩せる」、「ウエストがマイナス〇センチ」などの著しい痩身効果を訴求するような過剰な表現がなされ、行政処分となった事案が散見されます。事業者様としては、一般消費者に正確な情報を伝えるために、表現には細心の注意を払う必要があります。
このような行き過ぎた表現がなされてしまうことは残念ですが、私の実感では、多くの健康食品メーカーは、食品表示法や景表法に真摯に向き合っておられると思います。

渡辺氏は食品表示検定も受験されました。その経緯について教えてください。

渡辺 元々消費者庁に出向する前から、事業者様からのご相談の際には景表法だけでなく食品表示法についても深く理解する必要性を感じてはいましたし、その思いは消費者庁への出向中により強くなりました。そこで、食品表示検定を受けることを決意しました。2021年に中級試験に合格し、その後、上級試験にも挑戦して合格しました。試験勉強では、食品表示基準のQAや協会の中級の認定テキストを何度も読みましたし、問題集も使いました。他にも協会主催のセミナーにも参加しました。また、上級試験では、マークシート問題で確実に得点を積み重ねることを意識して勉強し、記述問題は仮想の問題を設定して回答案を作成するなどして対策しました。

合格後、食品表示活用研究会に参加された経緯は?

渡辺 上級試験に合格すると食品表示活用研究会に入会できることは承知しておりましたので、合格した際には是非入会させていただきたいと思っていました。この会では、実務のスペシャリストが集まり、課題についてディスカッションを行うこともありますし、専門家の方をお呼びして講演をしていただくこともあります。僭越ながら私もスピーカーを務めさせていただいたこともありますが、実務的な視点で食品表示に取り組んでおられる皆様との貴重なネットワーキングの場でもあり、非常に有意義だと感じています。

法曹界での食品表示法の専門家は少ないように感じますが、この分野の将来についてどう思いますか?

渡辺 確かに、法曹界で食品表示を専門的に取り扱っている弁護士は少ないと思います。もっとも、食品表示法は府令や通知も含めて頻繁にアップデートされていきますし、国際化やデジタル化の議論も進んでいる中で、引き続き重要な分野であることに変わりはありません。いわゆるリスクコンプライアンスの面も含めて、食品表示の専門知識を持つ弁護士が必要であると思いますし、私としても、日々情報をアップデートし研鑽を積んで、今後もこの分野で皆様のお役に立てることができれば幸いです。

(インタビュー 2025年2月)