食品表示検定活用事例
世界同時で進行するネスレ日本の「FOPNL」戦略
ネスレ日本株式会社様
- 食品法規部部長 藤野 奈津子様
- マーケティング&コミュニケーション本部 コーポレートアフェアーズ統括部 ウエルネスコミュニケーション室室長 原田 大輔様
製品パッケージの前面に栄養成分を1食単位で表示するネスレ日本の「FOPNL戦略」が注目されている。同社は世界188カ国で事業を展開するグローバル食品企業。我が国では110年以上の歴史を持つ老舗メーカーでもある。ゆえに同社のFOPNL戦略は、常に世界戦略と呼応して進行している。
ネスレ日本のFOPNL戦略が注目されています。その特徴は何ですか。
原田 弊社は、ご存知のようにスイスに本社を置くグローバル企業です。また、150年以上の歴史を持つ企業でもあります。ネスレの創業は、当時死亡率の高かった乳幼児の栄養改善から始まりました。そのため、当社は「栄養」「健康」「ウエルネス」を基本とした製品開発を重視してきました。しかし、食生活は時代とともに変化します。健康に良く、美味しい製品でも、時として摂取しすぎて健康に影響を与えることもあります。また、過度の栄養摂取は食生活のバランスを崩すことにもつながります。この傾向は世界的な傾向です。そこで「バランスのとれた食事をもたらすためにサポート」することをネスレグループは中長期の目標として全世界のネスレマーケットに提案をしました。これを我々は「グッド・フォー・ユー戦略」と称しています。
具体的にはどのような戦略でしょうか。
原田
目的としては2つの柱があります。第1は製品そのもの。つまり、新製品による栄養改善やマーケットに則した製品改良や開発です。2つ目は、ネスレの製品そのものに加えて、生鮮食品やその他の食品を含めたバランスのとれた食事に関する情報(コミュニケーション)やサービスの提供です。つまりネスレ製品と食生活全体の改善提案です。
この2つの柱の中で、ネスレの製品ポートフォリオを4つに分類し、その分類にごとに栄養、健康、ウエルネス戦略の優先順位を示しました。それは①時折の贅沢、②心の楽しみ、③毎日の食生活、④専門的な栄養という分類です。
この分類は、ヘルススターレーティングという栄養スコア評価方法を参考にして組み立てました。この中で、一番スコアの高いのが「毎日の食生活」でした。そこで、ネスレでは③と、ヘルススターレーティングの評価対象とはならないが栄養的付加価値のある④とをGROW(成長戦略製品)と位置付け、①と②をGUIDE(適量・適切な食べ方・飲み方のための手引・提案)と分類しています。
面白い分類ですね。これもグローバル戦略で決定されたのですか。
原田
そうです。全世界のネスレで実践されています。こうした戦略活動は透明性が大事です。情報公開としてグローバルサイトのHPになりますが【共通価値の創造レポート】として発表しています。これは毎年、情報を更新して開示しています。
また、GUIDEに分類されたグループのマーケティング活動にも特徴があります。
アイスクリームやお菓子は適量で楽しんでいただくことが大切だと考えています。特に子どもにとって適量を判断することは難しい。そこで、子ども向け製品には1食分110キロカロリー以下におさまるよう製品を設計します。
また近年ではSNSなどのデジタルメディアのマーケティング活動も盛んです。そこで、ネスレでは16歳未満の子どもに対しては、こうした有料メディア広告による直接的なマーケティング活動を自主的に制限しています。
製品だけで解決できない課題・問題をコミュニケーションやサービスを通じてフォローすることが大事で、栄養成分を1食分単位にしてパッケージの表面にガイダンスをすることはとても大事だと思います。
日本でも同様の展開ですか?具体的な商品はどこに当てはまりますか。
原田 4つの分類は日本でも同じです。③の毎日の食生活では、ネスカフェのブラックコーヒー、①の時折の贅沢はキットカットなどが対象製品となります。1食分をわかりやすくし、視覚的で直感的にわかるようにしたビジュアル・ポーション・ガイドは消費者のインフォームド・チョイスを可能にし、好評を得ています。例えば、キットカットでは製品パッケージ表面に1枚が1食(回)分で、1枚当たり62キロカロリーという情報をイラストで表示しました。また製品パッケージ裏面においてもイラストや文言でわかりやすく表示し、栄養関連情報の詳細は栄養成分表示にて1枚当たりの栄養素と、それぞれが1日の摂取目安に対してどのくらいの割合を占めているかを表示しています。
FOPNL戦略が各国のネスレにスムーズに運営されるのもネスレの特徴ですね。
藤野
日本の会社の多くで、食品表示を担当している部署は品質保証部かと思いますが、弊社には品質保証部とは別に、同列の組織として食品法規部という部署があり、食品表示を含む食品に関する法規全般を担当しています。これはネスレのスイス本社のコピーのような形で、他国のネスレもそのような組織となっています。
製品品質そのものとは別にコンプライアンスの視点から管理するという考えで食品法規部が担当しているということですね。
日本のマーケットにおいては、食品法規部は生産本部の中に位置し、通常の業務は生産本部からの垂直型レポートラインとなります。が、これは外資系に特有なのかもしれませんが、そのラインとは別のネスレのスイス本社の食品法規部につながるいわゆるドットラインがガバナンス上重要です。そのドットラインを通じて、スイス本社の食品表示関連部署から直接、指示や情報が日常的に流れてくるということです。また、定期的なオンライン、オフラインの会議を通して他マーケットの食品法規担当者ともつながっており、機能を重視した縦横の情報網となっています。このガバナンスを通して、スイス本社の伝達が瞬時に世界のネスレに行き届くのです。これは、原田の部門でも同じです。