理事長からの食品表示便り

遺伝子組換え食品の表示制度の動向について
―その2 検討結果と今後のスケジュール―
名刺記載例

寒かった冬もようやく去り、各地で満開の桜の便りが届く候となりましたが、皆さま方には新年度を迎え、心機も新たにお過ごしのことと思います。

前号は遺伝子組換え表示に関する現行のルールや消費者の意識について記しました。

本件は、消費者庁において10名の委員から成る「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」(座長:湯川 剛一郎 東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門教授)が設置され検討がなされてきました(第1回平成29年4月26日〜第10回平成30年3月14日)。

前号の2月末段階では第9回までの検討状況を紹介しましたが、その後3月開催の第10回(最終回)において、同検討会としての報告書案が示され、ほぼ結論が出されましたので、以下に前号続編として検討会報告書案の内容を中心に解説します。

4. 遺伝子組換え表示制度の基本的考え方

同検討に当たっては、次の3点の基本的考え方に基づきなされました。

  1. @ 消費者は表示による情報を通じて食品を選択していることから、できる限り消費者にとって分かりやすく誤認を生じさせないように提供していくこと。また、事業者の実行可能性や表示に伴う社会的コストについても十分考慮すること。
  2. A 国内で流通されている遺伝子組換え農産物は、厚生労働省の安全性審査を受けており、これを原材料に用いた食品等の製造・輸入・販売も、食品衛生法により安全性が確保されたものであるため、遺伝子組換え食品の表示は、摂取する際の安全性の確保ではなく、消費者の自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保を実現することを前提とすること。
  3. B 遺伝子組換え食品の表示に対する消費者の理解を深めるため、科学的検証及び社会的検証によって表示の信頼性及び分析の実行担保等による監視可能性を確保し得る表示制度を構築し、これを積極的に普及・啓発すること。

5. 今後の遺伝子組換え表示制度の方向性

(1) 表示義務対象品目

現行制度で表示義務対象外となっている組換えDNA等が残存しない加工食品も、消費者への情報提供の観点から、表示義務の対象とすべきとの考え方がありましたが、大量の原材料や加工食品が輸入される我が国の状況下においては、社会的検証だけでは表示の信頼性を十分に担保することが困難であり、現行制度と同様に科学的検証と社会的検証を組み合わせることによって監視可能性を確保することが必要であるとされました。

その上で、現在は表示義務対象外の品目であっても、再現性のある組換えDNA等の検査法が確立されれば表示義務対象品目に追加することが適当とされました。

この点については、消費者庁が、平成28年度に現行制度において表示義務対象外であるしょうゆや食用油等について最新の分析技術を用いてDNAが検出できるかどうか検証を行ったところ、コーンフレークについて検査した5商品について、その全てからDNAが検出されました。この結果を受けて平成29年度から検査法の開発に着手していますが、コーンフレーク中のDNA残存量が少ないなどの理由から、現時点で検査法の確立に至っていません。

なお、事業者は、義務表示対象外の品目についてもガイドライン等により消費者への情報提供に努めることが望まれ、消費者庁は、事業者の自主的な取組に対して必要な支援を行うよう努めることが望まれるとしています。

こうした事業者の自主的取組やそれに対する行政支援については、以下に記す「表示方法」等にも共通に提言されています。

(2) 表示義務対象原材料の範囲

現行制度では、加工食品の表示義務対象原材料は、主な原材料(原材料の重量に占める割合の高い原材料の上位3位までのもので、かつ、原材料及び添加物の重量に占める割合が5%以上であるもの)に限定していますが、事業者の実行可能性、表示の見やすさ・優先度等を踏まえると、現行制度を維持することが適当とされました。

(3) 表示方法

前号で示したように、現行制度において、分別生産流通管理(IPハンドリング)が行われたことを確認した遺伝子組換え農産物及びこれを原材料とする加工食品には「遺伝子組換え」である旨を、遺伝子組換え農産物と非遺伝子組換え農産物が分別されていない農産物及びこれを原材料とする加工食品には、「遺伝子組換え不分別」など遺伝子組換え農産物と非遺伝子組換え農産物が分別されていない農産物である旨を表示することが義務付けられています。

一方こうした現行制度の中で、「遺伝子組換え不分別」の表示の意味が分かりにくいという消費者の意見や、前号で記したように消費者意向調査において「遺伝子組換え不分別である旨の表示」に関する認知度が3割にとどまっている状況があります。

このことを踏まえれば、消費者庁は、事業者や消費者等から幅広く意見を聴取し、「遺伝子組換え不分別」の表現に代わる実態を反映した分かりやすく誤認を招かないような表示を検討し、Q&A等に示すよう取り組むことが適当とされました。

(4) 「遺伝子組換えでない」の表示方法

現行制度では、分別生産流通管理が行われたことを確認した非遺伝子組換え農産物及びこれを原材料とする加工食品には、「遺伝子組換えでないものを分別」、「遺伝子組換えでない」など分別生産流通管理が行われた非遺伝子組換え農産物である旨を任意で表示することができます(任意表示)。この場合、分別生産流通管理が適切に行われたとしても、大豆及びとうもろこしは遺伝子組換え農産物の一定の混入の可能性があることから、5%以下の「意図せざる混入」がある場合でも「遺伝子組換えでない」旨の表示をすることができます。一方、「意図せざる混入」率が5%を超える場合は、分別生産流通管理が適切に行われたことにはならないため、「遺伝子組換え不分別である旨の表示」が必要です(義務表示)。

こうした現状制度に対して検討を行った結果、「意図せざる混入」の許容率については、できるだけ引き下げてほしいという消費者の要望がありましたが、事業者による原材料の安定的な調達が困難となる可能性、許容率引下げに伴う検査に係る作業量やコストの増大などの事情を総合的に勘案すると、大豆及びとうもろこしについて5%以下の意図せざる混入を認めている現行制度を維持することが適当とされました。

一方、「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件については、大豆及びとうもろこしに対して遺伝子組換え農産物が最大5%混入しているにもかかわらず、「遺伝子組換えでない」表示を可能としていることは誤認を招くとの意見を踏まえ、誤認防止、表示の正確性担保及び消費者の選択幅の拡大の観点から、「遺伝子組換えでない」表示が認められる条件を現行制度の「5%以下」から「不検出」に引き下げることが適当とされました。なお、引下げに当たっては、食品の製造・流通・消費の現場で混乱が生じないよう、新たに公定検査法を確立し、円滑な検証や監視を担保するとともに、事業者や消費者に十分な周知を行うことが必要とされました。また、新たな公定検査法の確立に当たっては、遺伝子組換え農産物の混入率を判定する現行の定量検査法のように、正確性と実行可能性のバランスにも配慮すべきです。

なお、「不検出」に引き下げた際に「遺伝子組換えでない」表示ができなくなる食品については、消費者の食品の選択の幅を広げる観点だけでなく、分別生産流通管理を適切に実施してきた事業者の努力を消費者に伝える観点からも、表示の信頼性及び実行可能性を確保できる範囲内で、分別生産流通管理が適切に行われている旨の表示を任意で行うことができるようにすることが適当とされました。

このように「不検出」ではないものの、適切に分別生産流通管理された原材料に任意で事実に即した表示をする場合の表示については、検討会において図5(1)(2)のような例が示されました。

図5(1)適切に分別生産流通管理された原材料に任意で事実に即した表示をする際の表示例 図5(2)適切に分別生産流通管理された原材料に任意で事実に即した表示をする際の表示例

(5) 遺伝子組換え表示制度の普及・啓発

我が国は遺伝子組換え農産物の生産国から多くの大豆やとうもろこしなどを輸入しており、消費者からは食品の選択の指標としての遺伝子組換えに関する情報提供が求められています。

我が国で遺伝子組換え表示制度が導入されてから約17年が経過していますが、前号で示したように、遺伝子組換え表示制度が十分に周知されているとは言い難い状況です。また、そのことが遺伝子組換え食品に対する消費者の不安を増幅させている面もあると考えられます。

以上のことから、検討会においては消費者庁が関係省庁と連携した説明会の実施や消費者向け資料の充実などによって、遺伝子組換え農産物の生産・流通実態や安全性などの実情及び遺伝子組換え表示制度の普及・啓発活動を積極的に行うべきであることが提言されました。更に、表示制度の普及状況や運用状況を把握することで適切な制度運営の確保に努めるべきであるとの指摘もされました。

6. 今後のスケジュール

以上、約1年間にわたる検討会の検討報告書の内容について記しましたが、この検討結果等を踏まえて、食品表示基準の改正がなされるまでのスケジュールは図6のようになることが予想されます。食品表示基準の所管は消費者委員会で、具体的には同委員会の食品表示部会において審議されることになります。

また、遺伝子組換え食品の表示基準以外にも、他の表示事項に関して新たなルールや改正される食品表示基準も諮問されることが予想されます。

いずれにしても、食品表示基準の改正は平成30年度の後半になると思われます。

なお、改正された遺伝子組換え食品の表示基準の施行について経過措置期間(猶予期間)が設定されることも予想されますが、設定された場合には、その期間中は新旧両基準の製品が混ざった形になり混乱することもあるため、経過措置期間を設定せず施行期間の時期を遅くすることも考えられます。

図6 食品表示基準の改正について

(平成30年3月31日現在)

-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その1消費者の表示に対する意識― (平成30年2月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)- (平成29年12月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)- (平成29年11月27日)
-加工食品の原料原産地表示基準の答申及び施行に関しての留意点- (平成29年8月25日)
-加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- (平成29年8月1日)
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
-分かりやすい表示と情報の重要性の整序- (平成29年4月30日)
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
-若年層における食品表示教育の現状- (平成29年3月1日)
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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